
Apsara Conference 2026(2026年9月22〜24日、杭州)の会場には、「AI エージェントがどこで動くのか」を形で見せる展示が集まった一角がありました。キーボードつきのタブレットのような「Qwen Book」、クラウドの上にパソコンを置く「无影(ウーイン)」、メガネやイヤホンの形をした端末、そしておもちゃやロボットにエージェントを組み込むための開発基盤です。
この記事では、撮影した写真と約8分の動画に写っていたものを順にたどります。画面に何が表示され、パネルに何が書かれていたのかを日本語で説明し、公式文書で確かめられる範囲を補ったうえで、仕事の道具としてのパソコンがどう変わりそうか、日本の企業にとって何が論点になるかを考えます。
「端末のインテリジェント計算」の看板の下で

区画の入口には、大きな照明看板が掛かっていました。中国語で「终端智能计算」、直訳すれば「端末のインテリジェント計算」です。その下に英語で「Alibaba Cloud Workspace」と「Qwen Book」が並びます。Alibaba Cloud Workspace は、クラウド上のパソコンを提供する无影の英語名です。
手元の端末で動く AI と、クラウドの上のパソコンが、一つの看板の下にまとめられている。この組み合わせが、この区画のいちばん大きな主張だと読みました。以下、手元の側から見ていきます。
Qwen Book の実機デモの8分間

Qwen Book のコーナーには「实操演示区」、実際に触って試せるデモエリアの札が出ていました。脇の縦長の板には「你的第一台『原生智能体电脑』」、つまり「あなたの最初の『ネイティブなエージェント・パソコン』」というコピーと、「初见即懂 即刻胜任(ひと目でわかり、すぐに使いこなせる)」「AI EXPERT FROM DAY ONE」という言葉が添えられています。
筆者はこのデモ台の端末を約8分18秒の動画で撮影しました。誰が操作していたのかは記録していないため、以下では「操作する人」と書きます。操作が成功したかどうかも、画面に表示された文字の範囲でしか言えません。以下の時刻は、撮影した動画の先頭からの経過時間です。
端末の形
最初の30秒ほどは、机に置かれた端末の背面が映っています。薄い板状の本体の背面にカメラが二つ並び、別体のキーボードとつながっています。0:36ごろには本体がキーボードに立てかけられ、起動の画面に Qwen のロゴのような図形が浮かびます。1:24ごろからは、操作する人がペンを手に取っています。形としては、キーボードとペンのついたタブレットです。
画面1:Blender で街の3Dモデル

2:00ごろの画面では、左側に対話の欄があり、右側に3D制作ソフトの Blender が開いていました。Blender の中には、楕円形の屋根をもつ建物を中心に、周囲にビルが並ぶ街の3Dモデルが表示されています。対話の欄の見出しの文字は小さく、この解像度では正確に読み取れません。
この画面だけでは、3Dモデルをエージェントがその場で作ったのか、あらかじめ用意したファイルを開いたのかは判断できません。ただ、次の画面を見ると、デモの筋書きの中でこの3Dモデルがどういう位置づけなのかがわかります。
画面2:「今日やること」の一覧

3:36ごろ、画面はホームのような表示に切り替わりました。いくつかのカードが並び、それぞれに「智能待办」(AI が管理する ToDo)などの見出しがついています。読み取れた文言を日本語にすると、次のとおりです。
- 「Qwen Book の公式サイトをデザイン」。その下に「プロジェクトの予定によると、今日は公式サイトを作る日です」。
- 「『新製品発表会の提案.PPTX』を修正」。
- 「A 社の新しい消費者向けハードウェアの動向を分析」。
- 「外観のデザインは完成しました。続けて3Dモデルを制作します」。その横に、画面1と同じ街の3Dモデルの縮小画像。
つまりこの端末は、利用者の予定や進行中の仕事をもとに、「今日はこれをやりましょう」と作業を並べて見せる作りになっていました。画面1の3Dモデルは、このうちの一つの作業の続きとして位置づけられています。
ここが Qwen Book のデモでいちばん面白い点だと思います。いまのパソコンでは、人がアプリを開き、ファイルを選び、作業を始めます。このデモの画面では、端末の側が先に仕事の一覧を出し、人はそのカードを選んで続きを任せる、という順番になっています。パソコンの入口が「アプリの一覧」から「今日の仕事の一覧」に置き換わっています。
この作りは、便利さと引き換えに、端末が多くの情報を読むことを前提にしています。「プロジェクトの予定によると、今日は公式サイトを作る日です」と言えるためには、端末が予定表や進行中のファイル、過去の対話を読んでいなければなりません。個人の道具としては自然な設計ですが、会社の端末として配るなら、どの予定表とどのフォルダを読ませ、どこから先は読ませないのかを、管理者が決められる必要があります。今回の記録からは、その設定の画面や仕組みは確かめられませんでした。
画面3:商品情報の調査

4:12ごろには、対話の画面で「淘宝の iPhone 18 Pro の商品情報を調べる」という依頼が見出しになっていました。淘宝(タオバオ)は中国の大手 EC サイトです。左の欄には過去の対話の履歴らしい項目が並んでいます。この場面では調査の結果までは読み取れませんでした。
画面4:ペンで囲んで直す
デモの後半、6:00〜6:50ごろには、Web ページの制作画面が開いていました。左に対話の欄、右に「index.html」のプレビューがあり、プレビューには「Qwen Book」の見出しと「A computer truly born for AI.(AI のために生まれたコンピュータ)」という大きな英文が表示されています。
操作する人がペンでこの英文を丸く囲むと、囲んだ線のそばに修正の候補が三つ並びました。「把标题字号放大一点(見出しの文字を少し大きく)」「把选中文字颜色改成绿色(選んだ文字の色を緑に)」「把选中的文字改成英文(選んだ文字を英語に)」です。対話の欄には、「首页の主見出しを『A computer truly born for AI.』に変更しました。元の文字サイズと色は保っています」という趣旨の文が表示されていました。
ここで見せていたのは、マウスで範囲を選んで書式を変える操作を、ペンで「この辺」と囲んで言葉で頼む操作に置き換えることです。囲まれた部分から、どんな修正を頼みたいのかを端末の側が推し量り、候補を出す。人は候補を選ぶか、言葉で言い直すだけで済みます。
なお、以前の取材レポートには、この動画について「7件のサブタスクへの分解」などの記述がありました。今回、動画を12秒おきに確認した範囲では、その場面を特定できませんでした。本記事では使っていません。
Qwen Book について確かめられたこと、確かめられなかったこと
今回、Qwen Book の製品仕様を示す公式のページは見つけられず、取得できていません。したがって、この端末の処理が手元でどこまで行われ、どこからクラウドのモデルを使うのか、発売の時期や地域、価格は、この記事では書けません。わかっているのは、デモエリアの札と画面に表示されていた文字、そして端末の形だけです。
クラウドの上のパソコン「无影」
ここで、会場の紹介からAlibaba Cloud本社で撮影した展示へ視点を移します。无影は、同じ問いに別の答えを示していました。パソコンを手元に置かず、クラウドに置くという答えです。

パネルの見出しは「无影 AI 云电脑,AI 时代生产力工具的新选择」、「无影 AI クラウド PC、AI 時代の仕事の道具の新しい選択肢」です。図の左側には、従来のパソコンの悩みとして「データを手元に保存する危険が高い」「保守と管理が複雑」「資源の利用率が低い」「ハードウェアの物理的な制約が強い」の四つが挙げられ、右側にはクラウド PC の利点として「強安全(安全性が高い)」「低投入(初期投資が少ない)」「零运维(保守がいらない)」「更灵活(より柔軟)」の四つが並んでいました。
この対比の中身は、公式文書でも確かめられます。Alibaba Cloud の文書は、无影の企業向け版(英語名 Elastic Desktop Service Enterprise)を、パソコンの画面をサービスとして提供する製品(Desktop as a Service)と説明しています。独自の画面転送の方式(Adaptive Streaming Protocol)の上に作られ、計算とデータをクラウドに集めるので、業務データは手元の端末に残らない、手元の端末は表示と入力だけを担う、という仕組みです。画面への透かし、画面の撮影や録画の防止、クリップボードの制御、周辺機器の制限といった機能も挙げられています。GPU を積んだクラウド PC を使えば、設計や映像の後処理、工業シミュレーションといった重い作業を、手元の普通の端末から行えるとも書かれていました。

クラウド PC に接続するための専用端末も展示されていました。「无影魔方 Ultra」、英語の札では「Terminal Ultra」です。魔方はルービックキューブのことで、その名のとおり手のひらに載る程度の箱型の機械でした。計算はクラウドで行うので、手元にはこの小さな箱と画面、キーボードがあればよい、という見せ方です。

壁面の画面には、活用の場面として「具身智能(ロボットなど身体をもつ AI)」「通用办公(一般の事務)」「教育培训(教育と研修)」「设计渲染(設計とレンダリング)」の四つが並んでいました。各場面には導入企業の事例と数値も添えられていましたが、数値は展示側の主張で、条件も確かめられないため、ここでは取り上げません。
人のためのパソコンと、エージェントのためのパソコン

无影ブースで最も示唆に富んでいたのは、製品の全体像を一枚にまとめた図です。見出しは「阿里云无影产品大图」、英語で「Alibaba Cloud Workspace Product Family」。図は下から、基盤となる設備、基礎的な能力、端末、製品、利用場面の段に分かれています。
注目したのは「製品」の段です。ここが左右に二つに分かれ、左に「For Human(人のため)」、右に「For Agent(エージェントのため)」と書かれていました。左側には AI クラウド PC やクラウドのスマートフォン、クラウドのアプリといった、人が使う製品が並びます。右側には「Agentic Computer」「Agentic Mobile」「Agentic Browser」、つまりエージェントが操作するためのパソコン、スマートフォン、ブラウザが並んでいました。
同じクラウド PC の技術を、人に貸すだけでなく、エージェントに貸す。この発想は、隣のブースの展示で具体的な形になっていました。

「无影 Agentic Computer」の展示の画面には、「不同类别命令行→Blender 它也能开」という見出しが出ていました。「いろいろな種類のコマンドから、Blender だって開ける」という意味です。エージェントがクラウドのパソコンの上で、普通のデスクトップのアプリを操作できる、という訴求です。
ここで、先ほどの Qwen Book のデモを思い出してください。Qwen Book の画面にも Blender が開いていました。片方は手元の端末で、もう片方はクラウドの上のパソコンで、どちらも「エージェントが Blender のような普通のアプリを扱う」場面を見せていたことになります。同じ会場の近い区画で、同じソフトが別々の答えの例として使われていました。
エージェントがアプリを操作する環境については、Alibaba Cloud の AgentBay の製品ページでも確かめられます。AgentBay は、ブラウザ、パソコン、コード、スマートフォンの四つの操作環境をクラウドで提供するとしており、パソコンの環境(Computer Use)では Windows や Linux の画面を用意して、従来のデスクトップのソフトを自動で操作できると説明しています。つなぎ方として SDK、MCP、画面転送の方式(ASP)の三つを挙げ、シンガポールに置かれていることも書かれていました。无影ブースの壁面に AgentBay のパネルがあったことからも、両者が同じ製品群として見せられていたことがわかります。AgentBay の展示そのものは、同じ連載の開発・業務アプリ編で詳しく扱います。
エージェント専用の「作業席」と、事前・事後の管理

无影の区画には、二つの展示が背中合わせに近い形で並んでいました。左は「无影安全办公解决方案」、英語で「Alibaba Cloud Workspace Secure Office Solution」。画面の見出しは「无影办公安全策略:事前拦截,事后审计」、つまり「事前に止め、事後に監査する」という安全対策の方針で、画面は「事前の持ち出しの阻止」と「事後の監査と追跡」の二つの列に分かれていました。
右は「无影 Agent 专属工位解决方案」、英語の札では「Solution for AI Agents」です。「工位」は職場の座席のことで、エージェントにも社員と同じように専用の作業席を用意する、という言い方になっています。画面の上部には「Agentic Browser」の文字があり、作業の手順を番号つきで並べた図が表示されていましたが、画面の半分ほどが手前の人物に隠れ、手順の中身は読み取れませんでした。
この二つが隣り合っていたことに意味があると筆者は考えます。人の事務作業を守るための「事前に止め、事後に監査する」仕組みと、エージェントに与える作業席が、同じクラウド PC の技術の上に並んでいる。エージェントに仕事を任せるときに企業が最初に気にするのは、何を持ち出されるか、あとから何をしたか確かめられるか、という点です。无影はその問いに、人の管理のために作った仕組みをそのまま当てる形で答えようとしている、と読めます。
人のためのパソコンとエージェントのためのパソコンで、求められるものは違う
公式文書を読み比べると、同じ「クラウドの上のパソコン」でも、人向けとエージェント向けで強調点が違うことがわかります。
无影の企業向け版の文書は、画面の透かし、撮影や録画の防止、クリップボードの制御、周辺機器の制限、TLS で暗号化した画面転送、スナップショットによるバックアップといった、人が使う画面を守る機能を並べています。そのうえで、軽い AI の推論には対応するが、百万単位のコンテナを同時に動かすような高い同時実行の用途には対応せず、そうした用途には GPU サーバーを勧める、とはっきり書いています。
一方、AgentBay の製品ページは、秒単位で環境を増減でき、数千の同時操作に対応すると説明し、ブラウザの操作には Playwright や Puppeteer といった自動操作の標準的な道具が使えること、操作の過程を目で見られるようにして追跡できることを挙げています。
人が使うパソコンでは、一人が一台を長い時間使い、その画面から情報が漏れないことが大事です。エージェントが使うパソコンでは、多数の環境を短い時間で立ち上げては片づけ、何をしたかを後から追えることが大事になります。展示の製品体系図で「For Human」と「For Agent」が別の列に分けられていたのは、この違いを反映していると考えます。企業が導入を考えるときも、社員向けのクラウド PC をそのままエージェントに使わせればよい、とは限りません。
身につける端末:メガネとイヤホン

会場では、千問(Qwen)ブランドのハードウェアの見学ガイドが配られていました。表紙には「9.22 – 9.24」「杭州国际博览中心(国博)」とあり、「精彩看点(見どころ)」として四つが挙げられています。
- 看点1「论坛发布」:2026 MaaS 技術メインフォーラム。
- 看点2「新品首秀」:千問 AI メガネ N シリーズの新製品の初披露。
- 看点3「全球首测」:千問 AI イヤーカフ型イヤホンの初めての体験公開。
- 看点4「Qoder 随身办公屏」:千問 AI メガネ S1、「转头即见空间办公屏(振り向くと空間に仕事の画面が見える)」。
裏には「找到我们(ブースの場所)」として、1号館(智能館)の 1-A2-25 と記されていました。ガイドの中で N シリーズと S1 は別の見どころとして書かれており、同じ製品かどうかはガイドからは判断できません。この記事でも別々に扱います。

展示台には「千问 AI 眼镜 S1」の札とともに、形の違うメガネがいくつか並んでいました。背後の壁には、機能を示す言葉が掲げられています。読み取れた範囲では、「主动服务 AI 助理(先回りして動く AI アシスタント)」「第一视角拍摄神器(一人称視点で撮影できる道具)」、そして「Qoder」と「工作新能力(仕事の新しい能力)」の文字です。壁の一部は画角の外にあり、全文は読めませんでした。
ガイドの看点4と合わせて読むと、S1 は、メガネを通して目の前に仕事の画面を浮かべ、開発支援ツールの Qoder と組み合わせて使う、という提案と受け取れます。ただし、装着して操作している場面は記録できておらず、実際の見え方や操作の方法は確かめられていません。

イヤホンの展示は、約34秒の動画で撮影しました。カウンターの奥の大きな画面には「千问 AI 耳夹式耳机 | Qwen Clip」の見出しが出ており、耳の縁に挟むイヤーカフ型の白いイヤホンを、装着した人物の映像とともに紹介する映像が流れていました。画面の脇には「这个多少钱 How much is it?(これはいくら?)」「这是什么 What is this(これは何?)」という札が見えます。目の前のものについて声で尋ねると答える、という使い方の例です。

開発支援ツール Qoder のブースにも、メガネの展示がありました。緑の壁に「新形态:Qoder 眼镜版」、「新しい形:Qoder のメガネ版」と書かれ、「云栖首发 APSARA DEBUT(Apsara で初公開)」の札がついています。台の上にはメガネが置かれ、背後の壁には、メガネをかけて話しかける手のイラストが描かれていました。脇の案内カードには体験の手順が書かれていましたが、写真では文字の一部しか読めません。
プログラムを書く道具である Qoder を、キーボードのないメガネで使うという展示です。画面を見ながら打ち込む作業ではなく、話しかけて小さなものを作らせる作業を想定していると読めますが、実際にどんなものが作られるのかは記録できていません。
おもちゃやロボットにエージェントを入れる


別の区画では、Alibaba Cloud の生成 AI 基盤「百炼(Model Studio)」の、ハードウェア向けの開発基盤が展示されていました。札には「阿里云百炼 Agent Studio for Hardware 平台」とあります。円形の台には、フィギュア型のロボット、キャラクターの人形、小型のカメラのような端末、AR グラスなどが並んでいました。
説明板の見出しは二つ読み取れました。一つは「Agent 工具:用一把钥匙开所有门,连接系统与服务(エージェントの道具:一本の鍵ですべての扉を開け、システムとサービスをつなぐ)」。もう一つは「Agent Studio for Hardware:先进 Agent 能力,直达每一台硬件(先進的なエージェントの能力を、すべてのハードウェアに直接届ける)」で、その下に「穿戴+玩具+汽车+手机+IOT+具身智能+万物(ウェアラブル、おもちゃ、自動車、スマートフォン、IoT、ロボット、あらゆるもの)」と続きます。展示品の一つ「Mooni M2」は、子どもが持ち歩くための AI 端末と説明されていました。
メガネやイヤホンを自社で作るだけでなく、他社の機器メーカーがエージェントを組み込むための部品も用意している、という展示です。ただし、この開発基盤の公式文書のページは、今回取得を試みた URL では見つからず、対応する機器の条件や提供の地域は確かめられていません。説明板の数値も、条件がわからないため取り上げていません。
会場から読み取れる変化
ここからは筆者の見方です。
この区画を歩いて見えてきたのは、エージェントが働く場所の候補が三つに分かれてきたことです。一つめは Qwen Book のような手元の端末で、人の予定や作業を把握して、仕事の一覧を先に出す。二つめは无影のようなクラウドの上のパソコンで、人に貸すこともエージェントに貸すこともできる。三つめはメガネやイヤホンのような身につける端末で、目の前のものを見たり聞いたりする入口になる。
どれか一つが勝つというより、役割が分かれていくと考えます。条件つきの予測として書くと、こうなります。業務のデータを手元に置かないという情報管理の要求が強い企業ほど、エージェントに仕事を任せる場所は、手元のパソコンよりクラウドの上のパソコンになるでしょう。无影の文書が挙げていた、データを端末に残さない仕組みや画面の透かし、クリップボードの制御は、人の作業を管理するために作られたものですが、エージェントの作業を管理する仕組みとしても使えるはずだからです。一方、手元の端末は、人が確認し、承認し、ペンで囲んで直す場所として残る。そうなれば、パソコンの価値は処理の速さより、人とエージェントの受け渡しのしやすさで比べられるようになります。
身につける端末については、今回の展示の記録からは、まだ仕事の道具としての姿は見えませんでした。値段を尋ねる、物の名前を尋ねるといった例は、買い物や生活の場面のものです。ただ、S1 の「振り向くと空間に仕事の画面が見える」という案内が示すように、各社がメガネを仕事の画面の置き場所として試し始めていることは確かです。
日本企業の仕事への影響
日本の企業にとって、最初に論点になるのは情報管理だと考えます。エージェントに社内のファイルやアプリを操作させるなら、それを手元のパソコンでやらせるのか、クラウドの上の隔離されたパソコンでやらせるのかで、管理の方法がまったく変わります。手元でやらせれば、社員のパソコンの中身にエージェントが触れることになります。クラウドでやらせれば、エージェント専用の環境を用意し、そこに渡すデータと権限を決めることになります。後者のほうが、何をさせたかを記録しやすく、止めやすいと筆者はみています。
パソコンの調達と管理の考え方も変わります。无影のパネルが挙げていた保守の手間や資源の利用率の低さは、日本の情報システム部門にもなじみのある悩みです。そこへ「エージェント用のパソコン」という新しい利用者が加わると、社員一人に一台という数え方が通用しなくなります。何台のエージェント用の環境を、どの時間帯に、どの権限で動かすのか、という新しい管理の単位が必要になります。
現場の作業にも変化が出そうです。Qwen Book のペンで囲んで直す操作や、メガネで目の前のものを尋ねる操作は、キーボードとマウスに慣れていない人や、手がふさがっている現場の人にとって、道具への入り方を変えうるものです。製造や保守、店舗の現場で、作業しながら記録を取る、手順を尋ねるといった使い方は、日本の現場にも当てはまる場面が多いでしょう。
ただし、今回見た端末の多くは、日本での提供や日本語への対応が確かめられていません。Qwen Book、S1、Qwen Clip については公式の製品仕様を取得できておらず、日本で入手できるかもわかりません。无影については公式文書を確認できましたが、日本で提供される版の機能や地域の条件は、今回の調査の範囲外です。
エージェントに任せる場所と権限について当社が重視すること
この区画の展示を踏まえ、当社はエージェントに渡す場所と権限を決める段階を特に重視しています。
一つは、エージェントに仕事を任せる場所の設計です。どの仕事を手元の端末でやらせ、どの仕事をクラウドの隔離された環境でやらせるのか。渡すデータ、許す操作、人が承認する地点、記録の残し方を、企業の情報管理の方針に沿って決めておく必要があります。
もう一つは、評価と試行です。クラウドの上のパソコンやエージェント用の操作環境は、同じような機能を名乗る製品が複数あります。企業の実際の業務の手順を使って試し、どこで止まり、どこで人の手が要るかを記録して比べる。その記録を、導入の判断と社内の説明に使える形で残すことを目指しています。
そして、現場の知見の再利用です。現場の人がペンで囲んだ直し方、声で尋ねた問い、エージェントが途中で止まった理由。こうした記録は、次の業務の手順や、次に選ぶ道具の条件になります。端末の形は数年で変わっていきますが、どの仕事をどう任せ、どこで人が確かめるかという知見は、会社の中に残ります。
まだ確かめられていないこと
最後に、本記事で扱いきれなかった点をまとめておきます。Qwen Book の製品仕様、処理の分担、発売の時期と地域は、公式の資料を取得できていません。デモ動画の画面に表示された作業を、エージェントがその場で実行したのか、用意された表示なのかは、動画からは判断できませんでした。千問 AI メガネの N シリーズと S1 の関係、Qwen Clip の仕様も未確認です。ハードウェア向けエージェント開発基盤は、公式文書のページを見つけられていません。无影と AgentBay は公式文書で基本的な仕組みを確かめましたが、展示にあった事例の数値と、日本で使える版の条件は確かめていません。
出典
- 公式文書(2026年9月27日取得):Alibaba Cloud「What is Elastic Desktop Service (EDS) Enterprise?」、「Introduction to Elastic Desktop Service」、「AgentBay」製品ページ、「Introduction to AgentBay」。
記事情報
| 取材・執筆・編集 | 株式会社Metelix |
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| 分類 | 解説(Apsara 2026・AI端末・ウェアラブル) |
| 利害関係 | 本記事は、Apsara Conference 2026の展示と公開文書をMetelixが取材・編集した技術解説です。数値は特に断りのない限りベンダー提示値であり、Metelixによる測定値ではありません。 |
| 検証方法 | 公開文書の記述は、2026年9月25日(日本時間)に公式サイト・公式ヘルプから取得し、製品名・機能名・数値などの主要な記述が公開文書に含まれることを確認しました。展示の記述は2026年9月の現地取材で確認した提示内容で、測定条件は示されていません。 |
| 評価時点 | 展示の取材は2026年9月(杭州・現地)。公開文書の閲覧日は2026年9月25日(日本時間)。内容と提供段階は閲覧時点のもので、今後変わる可能性があります。 |
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